第11戦 週末ナンパ ナンパを続ける中で、ナンパよりも大事なこと
4声かけ
1連れ出し
1バンゲ
雨の日は、地下に人が多い。
人の流れに紛れながら声をかけるスタイルだと、「スペースがない」という言い訳で、地蔵を正当化しがち。
もちろん、そんなものはただの言い訳で、妥当性は1ミリもない。
そうはいってもやはり、雨の日の地下は苦手に感じる。
人の多さだけでなく、こもった熱気にうんざりする。暑い、という状態が嫌いなのだ。
気分は低調だが、普段の200%くらいのテンションを目安に、人通りの少ない場所でパラパラと声をかける。シカトはされないが、かといって特段反応がいいというわけでもない。
人通りの多いところでなかなか声かけができないのは、やはり人目があるから、という言い訳を正当化しているからだろう、と気づき、情けない気分になる。
雨はさらに強まり、地下の熱気と湿気が倍増する。
これはやってられない、雨に降られた方がまだマシだ。
という言い訳をして、地下から出る。
地下から出て傘をさしながら、大雨の中を歩く。声かけが増えないのは変わらない。結局、そういうことなのだろう。
そんなことを考えながらプラプラ歩いていると、傘をささずに歩いている地味な服装の女性がいる。何もせず、すれ違う。
すれ違ってしばらくしてから、激しい後悔に襲われる。
「こんな雨の中で、傘もささずに歩く女性がいるのに、秒で声をかけ、傘に入れてあげ、最寄りの駅まで送る、というだけのシンプルな振る舞いができないのか?見た目が好みではないから、という理由だけで?」
自分のとった行動に、愕然とする。
自分は、女性に対して余裕のある人間になるために、ナンパをしているはずだ。
それが、ナンパをするあまり、女性に対する余裕がなくなってしまっては元も子もない。
あまりの情けなさに、ナンパどころではなくなる。自分に対する失望から、下を向いて歩く。
今日は帰って早めに寝よう、と決めて顔を上げる。すると目の前に、傘を持たずに歩く女性がいる。
ナンパの神は、悔い改める者を見捨てないらしい。
「自分はいま、試されている。」
そして、秒で声をかける。1秒たりとも躊躇はなかった。行き先を聞き、道案内し、送り届ける。少し会話し、連絡先を交換し、別れる。
会話が弾んだとは言えない。このさき連絡が続くかどうか、正直、自信はない。おそらく続かない。
だが、それよりも大事な、根本的な何かを受け取れたような気がしている。
今までの価値観に、楔が打ち込まれたような感覚。ブレイクスルー。